ホワイトペーパー

レーザ変調ソリューション

2光子顕微鏡用

概要

1990年に2光子レーザ走査型蛍光顕微鏡の発展的な研究(Denkその他、1990年)が発表されて以来、同技術はレーザ技術の段階的な進歩による恩恵を受けてきました。物理学研究室から始まった同技術は、こういった進歩を受け、細胞生物学、疾病研究、高度な神経科学イメージングの分野へと普及していきました。

この流れは2001年頃にワンボックス型の波長可変チタンサファイアレーザから始まり、数年後には、顕微鏡のサンプル表面におけるパルス幅を最適化する、自動分散制御がレーザに追加されています。チタンサファイアレーザの上限よりも長い波長で励起できるプローブが進化し効率化されたことを受け、2010年以降、レーザ会社は、カラーパレットの増加、より深いイメージング、光損傷の減少などのニーズに取り組むために、光パラメトリックオシレータに注目するようになりました。

この記事では、この進化の次のフェーズ、つまり高速出力変調のレーザシステムへの統合と、統合によってセットアップ時間の短縮、パフォーマンスの最大化、所有コストの低減を実現する方法について説明します。

レーザ変調
2光子顕微鏡

「高速出力変調のレーザシステムへの統合により、セットアップ時間の短縮、パフォーマンスの最大化、所有コストの低減が実現されます」

2光子顕微鏡のレーザ出力制御に対する要件

最も単純な形態としては、位相遅延波長板と偏光アナライザを追加することで、レーザ出力の連続制御を実現できます。波長板を回転させることにより、アナライザを通過するレーザ出力の透過率を通常、0.2%から最大99%にまで変更できます。波長板を電動化することにより、このプロセスを自動化して顕微鏡のイメージング面での出力を変更できます。たとえば、異なる深さのフレームで集光フルエンスを均等化できます。

ほとんどの最新型レーザスキャン2光子顕微鏡では、より高速な変調速度が必要になります。たとえば、データ収集を一方向にのみ行うラスターレーザスキャン用途では、不要な蛍光励起やフォトブリーチングを避けるために、「フライバック動作」中にレーザをブランキングする必要があります。共振型のガルボスキャナーの場合、立ち上がり / 立ち下がり時間は、ほんの数マイクロ秒です。この分野に関しては、光変調方式を検討する必要があります。

電気光学変調

電気光学変調器(EOM)は、ポッケルス効果を利用してビームの位相を遅延させることにより、レーザ出力を変調します。ここでは、電界の印加によって中心対称でない結晶に複屈折が引き起こされます。以前と同様に、偏光アナライザを使用して変調器のセットアップを完了させます。

ポッケルスセルは、比較的短い結晶で大きなビームに対応するため、縦方向励起の配置で構成されることもあります。この場合、標準的な半波長電圧(例:偏光を90度回転させるのに必要な電圧)は6 kV程度であり、2P顕微鏡に必要な速度とデューティサイクルで実現することは困難です。そのため、イメージング用のほとんどの構成では横電場の配置が採用されており、より長い結晶を使用して半波長電圧を大幅に低下させています。結晶は通常2個以上直列に配置し、互いに回転させ、必要なスイッチング電圧をさらに下げて熱負荷の影響を補います。

最良の画像コントラストを得るには、結晶のアライメントとオフセット(バイアス)電圧を調整して、パルスコントラスト(送信出力の最小値と最大値の比)を慎重に最適化する必要があります。

電気光学変調器(EOM)
2光子顕微鏡用レーザ変調ソリューション

図1:横方向のポッケルスセルの動作の簡略図。アナライザを通過する浸透率は、印加電界の調整により変調されます。

ポッケルスセルは2光子顕微鏡で広く採用されています。比較的簡単に配置できるため、中でも「内製メーカー」のコミュニティで、一般的な2光子波長でわずかな出力しか必要としないユーザーによってとりわけ利用されています。

たとえば、リン酸二重水素化カリウム(KD*P)をベースにしたセルは、約1100 nmまでの2Pアプリケーションに対して、優れた透過率、速度、コントラスト特性を適度なレーザ出力で発揮します。さらに、KD*Pは群速度分散特性が低いため、群遅延分散(GDD)が最小限に抑えられます。そのため、KD*Pポッケルスセルは、チタンサファイアレーザのような、分散の事前補正や波長可変制限のない、ウルトラファーストレーザを使用する際によく採用されています。

レーザ変調ソリューション

図 2:2光子顕微鏡での代表的なポッケルスセルの配置。EOMはユーザーの右手のすぐ下にあります。写真提供:Packer Lab(英国、オックスフォード大学)。

音響光学変調

音響光学変調器(AOM)は、圧電振動子が取り付けられた透明な水晶またはガラスで構成されています。振動子に高周波(RF)を印加すると、振動子から発生する音波によって結晶が歪み、屈折率格子が発生します。そして、セル内を進む光はブラッグ回折を起こします。

立ち上がり / 立ち下がり時間は、音波がレーザビームを通過する時間に比例するため、結晶内のビーム幅を小さくすることにより最適化できます。

弁別とコントラスト比は、0次と1次の回折次数間の分離角度(θS)と、対象の作業面までの距離の両方によって定義されます。

音響光学変調器(AOM)

「波長が680~1300 nmで出力2 Wを超える、ワンボックス型の広帯域波長可変レーザの登場により、新しいレジームでレーザ変調の性能と統合に対応する必要があります」

2光子顕微鏡で使用される最も一般的なAOM材料は、二酸化テルル(TeO2)です。この材質は、広い波長範囲での優れた回折効率と高出力処理が実証されています。30 dBm程度という適度なRF出力で伝送効率を最大化できます。

TeO2 AOMは通常、ブラッグ相互作用レジームで構成されており、1次の回折効率が最も高く、それより高い次数の回折は破壊的に消滅します。最小限のRF出力レベルで高い効率を実現するには、1 cmを超える結晶長が必要で、群遅延分散(GDD)が無視できなくなることに注意してください。また、他の下流の光学部品、特に対物レンズの分散を考慮し、AOMベースの顕微鏡システムと分散事前補正を備えたレーザを組み合わせて、サンプル表面の最短パルスを維持することでメリットを得ることができます。

波長可変レーザ用AOMの導入には、光学設計と制御エレクトロニクス設計の両方を注意深く行う必要があります。分離角(θS)は、RF駆動周波数(グレーティング周期)とレーザ波長の両方に依存するため、レーザ波長を調整する際には、RF駆動周波数を注意深く較正してポインティングの変化を最小限に抑える必要があります。また、回折効率が最大になるRF出力は、波長によって異なります。波長可変のイメージングシステムでは、RFの周波数と出力を注意深く制御し、比較的大きなGVDを管理するなど、煩わしい統合プロセスが必要であるため、優れた性能特性が得られるにもかかわらず、多くの内製メーカーの間ではカスタム設定を用いたAOMの使用が限られていました。

広帯域波長可変レーザでの変調

波長が680~1300 nmで出力2 Wを超える、ワンボックス型の広帯域波長可変レーザの登場により、新しいレジームでレーザ変調の性能と統合に対応する必要があります。

通常使用されているKD*Pポッケルスセルでは、高出力時にサーマルブルーミング効果が生じるため、ビームポインティング、ビームウエストの完全性、寿命に悪影響が及びます。波長が長くなるほど、駆動電圧とコントラストの問題が大きくなります。タンタル酸リチウムは、広帯域の波長可変が可能なEOM材料ですが、市販品の群遅延分散は分散補正型レーザの修正可能範囲より大きいため、パルスが長くなり、ピークパワーが低下し、効率的なイメージングに弊害をもたらします。

前述のように、AOMベースのソリューションはコストや性能面でのメリットが期待できますが、導入には高度な光学設計と電子制御の専門知識が必要であるため、多くのバイオイメージング施設では容易には利用できません。しかしながら、AOMソリューションは、統合ソリューションとして一部の顕微鏡メーカーで利用可能です。

2017年、Coherentは、AOM変調とレーザ光源を統合したターンキーソリューションがユーザーと顕微鏡業界の双方にメリットを生み出すことに気付きました。Coherentは、産業用ウルトラファースト加工レーザの統合AOMソリューションで収集したノウハウを基に、Chameleon Discoveryレーザの完全統合オプションとして、Total Power Control(TPC)を開発しました。

Total Power Controlは、Chameleon Discovery NXで利用でき、ハンズフリーの自動パッケージで、フルオクターブの波長可変領域である660 nm~1320 nmにわたって、高いコントラスト(1000:1以上)と高速変調(立ち上がり時間1 μs未満)を実現します。

変調後のChameleon Discovery NX

図 3:Chameleon Discovery NX TPCおよび変調後の代表的な最大出力。

RF周波数や出力の較正および調整といった負担の大きい要求事項は、すべてレーザ内部でプログラミングされるため、ユーザーや顕微鏡のインテグレーターは、必要とする設定波長と出力レベルを提供するのみで済みます。

AOMは非常にコスト効率に優れているため、Chameleon Discovery NX TPCの固定波長1040 nm出力には専用のAOMとドライバも装備されています。

出力はシリアル / USBコマンドまたは高速アナログ制御入力のいずれかで適切に制御できます。

図4:付属のGUIを使用して出力を直接変更したり、
フライバックブランキングや高速ディザー制御用に追加の高速アナログ入力を供給
したりすることが可能

内部でプログラミングされた波長および出力レベル

将来の動向

2光子イメージング技術の範囲がOEMや前臨床用途に拡大するにつれ、単一波長でコスト効率の高いフェムト秒光源への需要が高まりつつあります。コンパクトなウルトラファースト光源Axonシリーズなら、これらの要求に完璧に対応できます。

製品コンセプトの段階から、TPC機能はAxonの設計に統合され、新しい顕微鏡の設計やアプリケーションへの導入が簡素化されました。これにより、2光子顕微鏡システムは純粋な研究機器ではなく、移動可能な診断機器、臨床機器、ハイスループットスクリーニング機器の一部となり、統合によるきわめて高い利便性がアプリケーションにもたらされます。

最先端の神経科学研究における高出力レーザは、光遺伝学的な刺激を用いた全光学的な生体内イメージング技術の分野で重要な役割を担っています(Yuste, 2012)。空間光変調器(SLM)により、数十ワットのレーザ出力は、数十から数百の神経細胞を個別に対応できるビームレットに分割されます。この光制御方式では、カスタマイズできる短いバーストパルスが必要です。Coherent Monacoのような高出力ファイバーレーザでは、全ファイバー設計フォーマットを用いることで、これらの用途に必要な柔軟性が実現されています。その結果、高い平均出力を持つ高エネルギーのレーザが必要となり、また、1ミリ秒単位で刺激ビームのオン / オフを切り替える必要があるため、既存のポッケルスセル技術にとっては特有の課題となってます。こういった課題を解決するために、優れたパルス制御、顕微鏡設計の簡素化、イメージングシステムの信頼性の向上などを実現すべく、AOM技術はMonacoに完全統合されています。

高コントラスト、高速フレームレートのカルシウムイメージング

図 5:Discovery TPCで可能になった高コントラスト、高速フレームレートのカルシウムイメージングの一例。(1100 nm(赤)で励起されたRCaMP1.07を発現するニューロンのオーバーレイ、940 nm(緑)で励起されたGCaMP6を発現するアストロサイト、生体内、マウス。励起ソース:Chameleon Discovery TPC。図版提供:チューリッヒ大学Weber Lab)

AxonレーザによるTPC機能の提供

図6:すべてのAxonレーザは、共通のフォームファクタでTPC機能をオプションとして提供します。

Chameleon Discovery NX TPCとAxon 920 TPCの組み合わせ

図 7:Chameleon Discovery NX TPCとAxon 920 TPCとの組み合わせ。TPCにより、光学系レイアウトが簡素化され、貴重なテーブルスペースを節約できるようになります。写真提供:ネイル・メロビッチ氏(トロント、Hospital for Sick Children)。

概要

本テクニカルノートでは、2光子顕微鏡で使用するフェムト秒レーザのレーザ出力を変調するための2つの主要なアプローチである、電気光学変調と音響工学変調について取り上げています。EOMは高電圧を出力する機器を光路上に配置することが比較的容易なため、現在ほとんどの「内製メーカー」がEOMを採用しています。さまざまな顕微鏡業者が、EOMまたは部分的にレーザ伝送トレインに統合されたAOMを提供しており、そのメーカーのソフトウェアアーキテクチャで顕微鏡とレーザの両方を制御できます。Coherentは、年中無休の製造環境向けに設計された高出力ファイバーレーザの製造経験を活かし、AOMアプローチを利用してサイズ、コスト、スピード、性能全般の面でメリットを得ることで、2光子イメージング用途の要件が満たされることを確信しています。AOMの洗練された制御をDiscovery NXAxonMonacoのレーザソフトウェアとハードウェアアーキテクチャに統合することで、最先端の神経科学や医療診断における光学系設定が大幅に簡素化されて制御が容易になり、2光子ユーザー(内製メーカーと顕微鏡業者の両方)にとってメリットとなります。

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