ホワイトペーパー

医療機器の課題 :
異種金属の細いワイヤーの溶接

概要

ステンレスやニチノールは、医療機器によく使われている材料です。Coherentのアプリケーションエキスパートは、このような溶接が難しい材料で作られた細いワイヤーを安全に溶接するプロセスを開発しました。このプロセスは、プラスチックコーティングに損傷を与えることなく実行することができます

レーザ変調
2光子顕微鏡

「高速出力変調のレーザシステムへの統合により、セットアップ時間の短縮、パフォーマンスの最大化、所有コストの低減が実現されます」

医療機器のマイクロ溶接

レーザ溶接は、インプラントや内視鏡装置などの医療機器の製造に広く使用されており、多くの場合、繊細な部品の接合に使用されます。課題となるのは、接合相手が溶接の難しい材料で作られた非常に細いワイヤーである場合です。典型的な材料は、生体適合性や耐食性があって容易に滅菌できる、ステンレス、ニチノール、またはチタンです。さらに難しい課題となるのは、異種材料を接合しようとする場合です。レーザは(唯一ではないにしても)この作業に適したツールです。そのような材料を溶接する際、望ましい物理的特性(例 : ニチノールの形状記憶特性)を損なってはなりません。

細いワイヤー同士を接合する場合、ゼロギャップが求められます。フィラーを使用しない場合、小さなギャップであっても信頼性の高い接合をするためには大きすぎる可能性があるため、ワイヤーを互いに正確に配置する必要があります。したがって、レーザビームも正確に焦点を合わせる必要があります。最初の問題は治具で解決されますが、後者の作業では自動化ビジョンシステムによるレーザ焦点位置のアライメントが必要になります。

電気光学変調

電気光学変調器(EOM)は、ポッケルス効果を利用してビームの位相を遅延させることにより、レーザ出力を変調します。ここでは、電界の印加によって中心対称でない結晶に複屈折が引き起こされます。以前と同様に、偏光アナライザを使用して変調器のセットアップを完了させます。

ポッケルスセルは、比較的短い結晶で大きなビームに対応するため、縦方向励起の配置で構成されることもあります。この場合、標準的な半波長電圧(例:偏光を90度回転させるのに必要な電圧)は6 kV程度であり、2P顕微鏡に必要な速度とデューティサイクルで実現することは困難です。そのため、イメージング用のほとんどの構成では横電場の配置が採用されており、より長い結晶を使用して半波長電圧を大幅に低下させています。結晶は通常2個以上直列に配置し、互いに回転させ、必要なスイッチング電圧をさらに下げて熱負荷の影響を補います。

最良の画像コントラストを得るには、結晶のアライメントとオフセット(バイアス)電圧を調整して、パルスコントラスト(送信出力の最小値と最大値の比)を慎重に最適化する必要があります。

電気光学変調器(EOM)
2光子顕微鏡用レーザ変調ソリューション

図1:横方向のポッケルスセルの動作の簡略図。アナライザを通過する浸透率は、印加電界の調整により変調されます。

ポッケルスセルは2光子顕微鏡で広く採用されています。比較的簡単に配置できるため、中でも「内製メーカー」のコミュニティで、一般的な2光子波長でわずかな出力しか必要としないユーザーによってとりわけ利用されています。

たとえば、リン酸二重水素化カリウム(KD*P)をベースにしたセルは、約1100 nmまでの2Pアプリケーションに対して、優れた透過率、速度、コントラスト特性を適度なレーザ出力で発揮します。さらに、KD*Pは群速度分散特性が低いため、群遅延分散(GDD)が最小限に抑えられます。そのため、KD*Pポッケルスセルは、チタンサファイアレーザのような、分散の事前補正や波長可変制限のない、ウルトラファーストレーザを使用する際によく採用されています。

レーザ変調ソリューション

図 2:2光子顕微鏡での代表的なポッケルスセルの配置。EOMはユーザーの右手のすぐ下にあります。写真提供:Packer Lab(英国、オックスフォード大学)。

音響光学変調

音響光学変調器(AOM)は、圧電振動子が取り付けられた透明な水晶またはガラスで構成されています。振動子に高周波(RF)を印加すると、振動子から発生する音波によって結晶が歪み、屈折率格子が発生します。そして、セル内を進む光はブラッグ回折を起こします。

立ち上がり / 立ち下がり時間は、音波がレーザビームを通過する時間に比例するため、結晶内のビーム幅を小さくすることにより最適化できます。

弁別とコントラスト比は、0次と1次の回折次数間の分離角度(θS)と、対象の作業面までの距離の両方によって定義されます。

音響光学変調器(AOM)

「波長が680~1300 nmで出力2 Wを超える、ワンボックス型の広帯域波長可変レーザの登場により、新しいレジームでレーザ変調の性能と統合に対応する必要があります」

研究結果

このアプリケーショントライアルでは、100 WのStarFiberレーザに、さまざまなワイヤーの組み合わせを溶接するのに十分な出力があることが示されました。プロセスウィンドウは、すべてのタイプでかなり狭くなります。ピークパワーは10 W未満で、パルス幅は10 µs未満です。値を大きくするとワイヤーが切断されてしまい、値を小さくするとワイヤーは接続されません。使用されたパルス形状は、プロセスを安定させるのに役立ちました。ワイヤーが接触し、ギャップが埋まらないことが不可欠です。ワイヤーが切断されると、ワイヤーの端部が次のワイヤーに溶接される危険もあります。そのため、位置合わせが非常に重要です。

ピークパワー[W] パルス幅(ms) 繰返周波数(Hz) 速度[mm/分] 備考
30 0.035 30 20 溶接
40 0.05 30 - 切断

広帯域波長可変レーザでの変調

波長が680~1300 nmで出力2 Wを超える、ワンボックス型の広帯域波長可変レーザの登場により、新しいレジームでレーザ変調の性能と統合に対応する必要があります。

通常使用されているKD*Pポッケルスセルでは、高出力時にサーマルブルーミング効果が生じるため、ビームポインティング、ビームウエストの完全性、寿命に悪影響が及びます。波長が長くなるほど、駆動電圧とコントラストの問題が大きくなります。タンタル酸リチウムは、広帯域の波長可変が可能なEOM材料ですが、市販品の群遅延分散は分散補正型レーザの修正可能範囲より大きいため、パルスが長くなり、ピークパワーが低下し、効率的なイメージングに弊害をもたらします。

前述のように、AOMベースのソリューションはコストや性能面でのメリットが期待できますが、導入には高度な光学設計と電子制御の専門知識が必要であるため、多くのバイオイメージング施設では容易には利用できません。しかしながら、AOMソリューションは、統合ソリューションとして一部の顕微鏡メーカーで利用可能です。

2017年、Coherentは、AOM変調とレーザ光源を統合したターンキーソリューションがユーザーと顕微鏡業界の双方にメリットを生み出すことに気付きました。Coherentは、産業用ウルトラファースト加工レーザの統合AOMソリューションで収集したノウハウを基に、Chameleon Discoveryレーザの完全統合オプションとして、Total Power Control(TPC)を開発しました。

Total Power Controlは、Chameleon Discovery NXで利用でき、ハンズフリーの自動パッケージで、フルオクターブの波長可変領域である660 nm~1320 nmにわたって、高いコントラスト(1000:1以上)と高速変調(立ち上がり時間1 μs未満)を実現します。

変調後のChameleon Discovery NX

ターンキー最適化ソリューション

ExactWeldワークステーションは、Coherentのアプリケーションエキスパートにより、用途に合わせて工場でカスタマイズされます。このカスタマイズには、レーザ、プロセス制御、自動処理システムだけでなく、必要に応じて特殊な治具も含まれます。お客様はアプリケーションエンジニアに蓄積された知識と経験から大きな価値を得ることができます。

このようにして、ExactWeldはさまざまな溶接の種類や形状に最適化できます。接触溶接の場合、直径が最小10 µmまでの溶接スポットを実現できます。シーム溶接の場合、高い溶接速度で小さなシーム形状を実現できます。自由度の高い溶接もプログラミングできます。回転ステージのおかげで、穴や亀裂のないシール溶接ができ、漏れのない溶接が実現します。すべてのシステムにおいて、世界各地でのサービスおよびスペア部品の供給がいつでも利用できます。

RF周波数や出力の較正および調整といった負担の大きい要求事項は、すべてレーザ内部でプログラミングされるため、ユーザーや顕微鏡のインテグレーターは、必要とする設定波長と出力レベルを提供するのみで済みます。

AOMは非常にコスト効率に優れているため、Chameleon Discovery NX TPCの固定波長1040 nm出力には専用のAOMとドライバも装備されています。

出力はシリアル / USBコマンドまたは高速アナログ制御入力のいずれかで適切に制御できます。

図4:付属のGUIを使用して出力を直接変更したり、
フライバックブランキングや高速ディザー制御用に追加の高速アナログ入力を供給
したりすることが可能

内部でプログラミングされた波長および出力レベル

将来の動向

2光子イメージング技術の範囲がOEMや前臨床用途に拡大するにつれ、単一波長でコスト効率の高いフェムト秒光源への需要が高まりつつあります。コンパクトなウルトラファースト光源Axonシリーズなら、これらの要求に完璧に対応できます。

製品コンセプトの段階から、TPC機能はAxonの設計に統合され、新しい顕微鏡の設計やアプリケーションへの導入が簡素化されました。これにより、2光子顕微鏡システムは純粋な研究機器ではなく、移動可能な診断機器、臨床機器、ハイスループットスクリーニング機器の一部となり、統合によるきわめて高い利便性がアプリケーションにもたらされます。

最先端の神経科学研究における高出力レーザは、光遺伝学的な刺激を用いた全光学的な生体内イメージング技術の分野で重要な役割を担っています(Yuste, 2012)。空間光変調器(SLM)により、数十ワットのレーザ出力は、数十から数百の神経細胞を個別に対応できるビームレットに分割されます。この光制御方式では、カスタマイズできる短いバーストパルスが必要です。Coherent Monacoのような高出力ファイバーレーザでは、全ファイバー設計フォーマットを用いることで、これらの用途に必要な柔軟性が実現されています。その結果、高い平均出力を持つ高エネルギーのレーザが必要となり、また、1ミリ秒単位で刺激ビームのオン / オフを切り替える必要があるため、既存のポッケルスセル技術にとっては特有の課題となってます。こういった課題を解決するために、優れたパルス制御、顕微鏡設計の簡素化、イメージングシステムの信頼性の向上などを実現すべく、AOM技術はMonacoに完全統合されています。

高コントラスト、高速フレームレートのカルシウムイメージング

図 5:Discovery TPCで可能になった高コントラスト、高速フレームレートのカルシウムイメージングの一例。(1100 nm(赤)で励起されたRCaMP1.07を発現するニューロンのオーバーレイ、940 nm(緑)で励起されたGCaMP6を発現するアストロサイト、生体内、マウス。励起ソース:Chameleon Discovery TPC。図版提供:チューリッヒ大学Weber Lab)

AxonレーザによるTPC機能の提供

図6:すべてのAxonレーザは、共通のフォームファクタでTPC機能をオプションとして提供します。

Chameleon Discovery NX TPCとAxon 920 TPCの組み合わせ

図 7:Chameleon Discovery NX TPCとAxon 920 TPCとの組み合わせ。TPCにより、光学系レイアウトが簡素化され、貴重なテーブルスペースを節約できるようになります。写真提供:ネイル・メロビッチ氏(トロント、Hospital for Sick Children)。

概要

結論として、医療機器製造における最も困難な溶接アプリケーションの1つである、細さ25.4 µm(0.001インチ)でニチノールとステンレス製ワイヤーの溶接に成功しました。ニチノールなどの特殊な材料では、プロセスウィンドウを小さくする必要があり、パルス出力、持続時間、時間形状を確実かつ再現性を持たせて生成する必要があります。サイズが小さい場合、ワークピースの位置が正確で、レーザの焦点が絞られている必要もあります。Coherent ExactWeld 430は、医療機器業界での要求の厳しいさまざまな溶接アプリケーションにおいて、すでにその地位が確立されています。今では、この難しいワイヤー溶接作業に最適なソリューションを提供できることが証明されています。信頼性、パフォーマンス、使いやすさに関する最近の実際的な改善により、経済的にもさらに魅力的な製品になると見込まれています。

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