お客様事例

アウクスブルク大学: パルスレーザ成膜(PLD)におけるレーザを使用したターゲット改質の分析

課題

アウクスブルク大学(ドイツ)の実験物理学教授、ヘルムート・カール博士は、ナノスケール機能性酸化物の研究におけるグループリーダーを務めています。 同博士は、メモリーチップや燃料電池、セラミックコンデンサーなどの最新機器に利用可能なさまざまな磁気特性や電気特性を示す複合酸化物は、チームにとって特に興味深い対象であると説明しています。 

真空室でレーザパルスによりターゲットの表面を蒸発させ、放出された物質をテープやウエハなどの基板上に成膜させるパルスレーザ成膜(PLD)では、質の高い酸化物の層を生成することが可能です。 パルスレーザ成膜(PLD)加工方法は、複合酸化物の化学量論的な成膜やエピタキシャル成長、その他多くの機能性ヘテロ構造の材料区分において、すでに十分に実証されている一般的な方法です。 カール博士はまた、パルスレーザ成膜(PLD)は材料および成膜条件(バックグラウンドの酸素圧など)のいずれにおいても高い信頼性と汎用性に優れた技術であると述べています。 

パルスレーザ成膜(PLD)加工方法の最終結果、すなわち成膜層の組成や物性については、アウクスブルクのグループによるものを含め、数多くの研究が発表されています。 しかし、レーザとターゲット間のアブレーション相互作用など、初期段階の調査にはこれまであまり焦点が当てられていません。 そこでカール博士らは、レーザパルスを繰り返し照射することで、複数の複合酸化物の単結晶が、異なる配向とオンターゲットでのフルエンスでどのようにアブレーションされるか調べることで、この点を調査することにしました。 この問題に取り組むため、レーザのフルエンスを変えながらサイズと形状を維持できる、最適なパルスレーザ成膜(PLD)光学ビームパスが開発されました[1]。

ソリューション

研究チームは、パルス発振レーザアブレーションの単結晶(001)、(011)、(111)配向SrTiO3(STO)、(102)配向LaAlO3(LAO)、(001)配向Y3Al5O12(YAG)ターゲットに対する影響を調べることにしました。 単結晶が選ばれた理由は、パルスレーザ成膜(PLD)で成長した層は正確なカチオン化学量論を示すことが知られており、多結晶焼結体ターゲットでしばしば問題となる粒子破片の形成が少なく、初期表面状態が明確に定義されるためです。

この研究では、KrFエキシマレーザ、特にパルスレーザ成膜(PLD)の研究や産業用アプリケーションで一般的に使用されている波長248 nmのCoherent COMPex 205 Fが使用されました。 このレーザのパルスエネルギーは750 mJと比較的高く、低~高フルエンスで広範囲のアブレーションに対応できます。 カール博士は、「この248 nmエキシマレーザと専用ビームパスは、多くの異なる酸化物のパルスレーザ成膜(PLD)に適合することが証明されており、有意義な定量分析に必要なビームの均一性と優れたパルス間安定性を実現します」と説明しています。

図1は、本研究の光学配置の一部を示しています。 分析対象に同一条件で照射するため、アパーチャと縮小レンズの両方を固定するとともに、全誘電体アッテネータを使用して、アパーチャでレーザエネルギーを継続的に調整しました。 これによりレーザのスポットサイズを一定にしたまま、ターゲット表面のフルエンスを1~6 J/cm2の範囲で調整できるようにしています。

成果

この配置により、博士らは異なるフルエンスでさまざまな短いパルスシーケンスを行った後、単結晶ターゲットを形態、酸素損失、クラック形成の観点から包括的に評価することを目指しました。 ターゲット表面の形態は、原子間力顕微鏡、走査型電子顕微鏡、共焦点レーザ走査型顕微鏡で画像化し、 後方散乱電子回折分析およびエネルギー分散型X線分光分析により、表面の結晶学的変化と元素組成を分析しました。

この研究により、いくつかの興味深い結果が得られています。 たとえば、すべての材料において、1回のレーザパルスごとに周期的な溶融と再結晶により形成されたと思われる厚さ数百nmの層が観察されました(図2)。 ほとんどの材料では、熱衝撃だけが重要なメカニズムではないことを示すような表面クラックが発生し、 熱膨張による機械的な歪みも関係していることが確認されました。 また材料によって、酸素放出による分解も活発なメカニズムとなっています。

概して、研究チームはこうした新たな知見により、パルスレーザ成膜(PLD)のターゲット選択が改善されるとともに、エキシマレーザのパルスに基づく特定の表面パターニング加工の性能向上が期待できるとしています。

 

参考資料

1. F. Jung et al., Surface evolution of crystalline SrTiO3, LaAlO3 and Y3Al5O12 targets during pulsed laser ablation, Applied Physics A Volume 128, Article number: 750 (2022)  https://doi.org/10.1007/s00339-022-05805-5

 

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「この248 nmエキシマレーザは、多くの異なる酸化物のパルスレーザ成膜(PLD)に適合することが証明されており、有意義な定量分析に必要なビームの均一性と優れたパルス間安定性を実現します」

— アウクスブルク大学(ドイツ)物理学科、ヘルムート・カール教授


 



図1 (左から)ヘルムート・カール氏、ラルフ・デルムダール氏、フロリアン・ユング氏、アンドレアス・ヘイマン氏(アウクスブルク研究室)。 写真提供:アウクスブルク大学、カール教授。

 

Analyzing Laser-Target Modifications in PLD

図2 ターゲットアブレーションで使用するカプセル化されたパルスレーザ成膜(PLD)光学ビームパス。写真提供:アウクスブルク大学、カール教授。

 

Analyzing Laser-Target Modifications in PLD

図3 ターゲットごとに形成される新しい表面層を明確に示す劈開したYAGターゲットのSEM画像。 [1]より画像提供:アウクスブルク大学、カール教授。

 

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