MDM切断分野において、フェムト秒レーザへの注目度が急上昇

レーザの性能/コスト改善と、小型化される医療機器のため卓越した切断品質を求める声の高まりとが相まって、フェムト秒レーザの普及が急速に進んでいます。

2022年10月18日、Coherent

The Surging Interest in MDM Cutting with Femtosecond Lasers Explained

図1:ファイバーレーザおよびフェムト秒レーザをベースとするCoherentチューブ切断機のシステム収益比較。

 

ファイバーレーザは比較的低コストで自在に出力調整ができ、信頼性が高いことから、ここしばらく医療機器製造(MDM)業界における切断・穿孔用途の主流となっています。フェムト秒レーザは、切断品質の面で明らかな優位性を備えていましたが、わずかな市場シェアに甘んじるという状況が長らく続いていました。しかし、図で示したように、Coherentのチューブ切断システムの販売数に注目すると、この状況が急激に変化していることが分かります。ファイバーレーザと比較しながら、市場シェアのこのような劇的な成長を推進した要因について説明します。

フェムト秒レーザ — 切断品質、精度の向上

フェムト秒(fs)レーザを材料加工に利用することで、複数の利点をユニークな形で組み合わせられることは、以前から知られていました。ファイバーレーザのような従来のレーザ加工法の場合、材料の相互作用のほとんどはフォトサーマル効果によるもので、熱影響部(HAZ)を発生させます。精密用途においては、溶融を起こさずクリーンに加工できる機構の最小サイズがこれによって制限されたり、機能や外観の面で許容しがたい不具合を生じさせたりするほか、しばしば機械的な後処理(バリ取り、手作業での研磨、リーマ仕上げなど)が必要になることもあります。これに対してフェムト秒レーザは、桁違いに短いパルスを高いピークパワーで照射することで、部品に熱が伝わる前に、瞬時に材料を蒸発させます。このように、より低温でより高精度な切断を行うことにより、改鋳による加工屑を発生させることなく、より小さな機構を作り出すことができるため、研削や研磨の必要がありません。さらに、この方法は、ポリマーと金属を積層させたような複合素材部品も含め、あらゆる材料に対応します(図を参照)。 

Femtosecond lasers – Better, finer cuts

図2:フェムト秒レーザは、ほぼすべての材料を、卓越したエッジ品質でしかも材料の改鋳なしで切断できます。

微細な部分(支柱など)を備えた小型装置

近年、フェムト秒レーザ加工が注目されるようになった背景には、より小型・薄肉で、従来よりも切断面が多いことを特徴とする医療機器(末梢ステント、ハイポチューブ、低侵襲器具など)への需要があります。特に、上図のようなチューブ切断形状に対応した装置が求められている点に、こうした傾向が見て取れます。これに加えて、より難易度の高い材料や高価な材料が使われるという点も、もう一つの推進要因となっています。たとえば、マグネシウム製の生体吸収性ステントの場合、ファイバーレーザ加工後の後処理により歩留まりが50%程度まで低下してしまいますが、フェムト秒レーザ切断ならば後処理が不要になります。他の業界(ディスプレイ/エレクトロニクスなど)においても、この技術への移行が進んでおり、レーザメーカーが先進的なフェムト秒レーザ加工法や装置の開発を奨励する、さらなる市場需要を呼んでいます。

フェムト秒レーザの進歩 ― さらなる高出力、ワット当たりのコスト低減

実際、フェムト秒レーザはすでに、性能、経済性、信頼性といった面で、新たな成熟段階に到達しています。出力は、スループットを直接左右するため、特に重要な性能パラメータです。次世代型フェムト秒レーザの例としては、Coherent Monacoシリーズがありますが、販売チャートに記載した期間中も、最大出力が20 W未満から60 W以上へと順次増大しています。ほとんどのフェムト秒レーザで、ワット当たりのコストも最近になって低下しています。そのため、スループット向上と部品単価削減を両立することができます。Monacoの初期モデルは、24時間365日稼働という厳しい生産環境でも数年間稼働しており、フェムト秒レーザの信頼性が向上し、さらに総所有コストの削減にも貢献していることを裏付けています。結果として、機械的な後処理工程が不要になったことによるコスト削減と合わせ、いくつかの精密切断加工タスクにおいて、経済的な転機となったことは間違いありません。

装置の合理化・自動化

もちろん、医療機器の製造に携わる人々の多くは、レーザ単体ではなく、レーザマシン一式を求めています。合理化された自動部品処理と検査機能を備えた、高度なフェムト秒レーザマシンが入手できるようになったことも、需要拡大を後押ししています。トレーニングや専門知識を必要としない、使いやすいソフトウェアに対する需要も高まっています。ソフトウェアのおかげでユーザーは、異なるデバイス向けの少量バッチ処理を素早く切り替えたり、より大量のコンポーネントを長時間無人運転で加工したり、といった柔軟性を獲得することができます。たとえば、CoherentのStarCut Tubeシリーズには、当社による最新のオペレーティングソフトウェア「Coherent Laser FrameWork」が塔載されています。

結論:ファイバーかレーザか、それとも両方か?

現在、新しい装置の導入を検討するMDM関係者が最も頭を悩ませている問題の1つが、フェムト秒レーザとファイバレーザのいずれを選ぶべきかの選択です。ファイバーレーザに残された主な利点は、利用可能な出力が高いため、より速く、より厚い部品を切断できるということです。しかし、より薄い部品においては、繰返周波数を下げたり、熱によるダメージの蓄積を避ける必要があるため、出力やスピードといった面での利点も損なわれてしまいます。つまり、最適なレーザの種類は、用途によって異なるということです。 

そのため、最新の医療機器向けレーザ切断加工機では、フェムト秒レーザとファイバーレーザが選択できるようになっていたり、両タイプのレーザを備えたハイブリッドオプションが提供されたりするようになりました。ハイブリッドオプションでは、ファイバレーザからフェムト秒レーザでも、またその逆でも、より経済的な切断加工方法を選択できるよう、ジョブ単位でレーザの種類をシームレスに切り替えることができます。

Motion Dynamics社によるCoherent StarCut Tube Hybrid活用事例」では、神経系用サブアセンブリ製造におけるレーザ切断活用事例を詳しくご紹介しています。